第6章 閑話休題:大倶利伽羅
「きみは、主が帰ってこないと?」
「なら逆に聞くぜ。石切丸、あんたは主が無事に帰ってくるっていうのかい?」
「ああ、もちろんだ。主のことは信じているからね。鶴丸だって、そうだろう」
今度ばかりは、鶴丸国永も口をつぐんだ。
マイペースで、どこかほけほけしているように思える石切丸だが、こういう時に必要な言葉は間違えない。それが、大倶利伽羅が石切丸に抱くイメージだった。
「あんた、主は俺を無視できないと言ったな」
ゆっくりと立ち上がりながら、山姥切国広が言った。
「言ったとも」
鶴丸国永は、依然、態度を変えずに対峙する。
「それは、俺だけじゃない」
「そんなのは、きみがそう思っているだけだろう」
「ちがう。事実だ」
山姥切国広の言葉には力があった。故に、誰もが彼の言葉に耳を傾ける。
卑屈さは未だに抜けないが、やるときはやる奴。山姥切国広とは、そういう刀だ。
「あんただって、主を止める術を持っていたはずだ。強制的に止めようと思えば、止められたはずだ」
その言葉に、鶴丸の眉がぴくりと動く。
図星だった。
「でも、止められなかったろう。止めなかったんだろう。そういうあんただって、俺と同じさ!」
今度は、山姥切国広が吠える番だった。
「あいつを止められるっていうんなら、止めてくれ!でも、できないだろ!誰にも俺にも、主は止められない!」
山姥切国広は、更に続ける。
「…なぁ、あんたらの中に一振りでも、主に直接言ったやつがいたか?行くな、行かないでくれと、本気で止めようとしたやつがいたか?真名を暴き縛ってまで、脚の腱を斬ってまで、止めようとしたやつがいたか?」
大倶利伽羅はあたりを見回した。
刀たちは視線を山姥切国広に、鶴丸国永に、あるいは地面を見つめるようにうろつかせていた。