第6章 閑話休題:大倶利伽羅
「答えない、ということは、それが答えだ。何故、行かせた。主はきみに問うたはずだ。あれのことは俺だってよく知ってる。悔しいが、主はきみを無視できない」
「………」
山姥切国広は答えない。
それが、鶴丸国永の、矛先のない不安や焦燥が怒りとなり向かう先へとなってしまった。
「答えろ!何故止めなかった!きみはむざむざ主を死にに行かせたようなものだ!!」
普段の余裕がある態度からはかけ離れた鶴丸国永の様子に、ことの成り行きを見つめていたものたちは唖然とする。
大倶利伽羅だって、そんな彼の姿を見るのは初めてだった。
だから、反応が遅れた。
カチ、と聞き慣れた音にはっとする。鯉口が切られた音だ。
「っやめろ!国永!」
咄嗟に叫んだものの、鶴丸国永の抜刀の方が早かった。
ひっ、と子供の声が聞こえたのと、ガキンと刀が何かにぶつかる音が聞こえたのはほぼ同時。山姥切国広を押して、鶴丸国永の刃を止めたのは石切丸だった。
彼の刀は鞘から抜かれていない。
辺りから息を吐く音が聞こえる。誰もが安堵に胸を下ろしていた。
一方で、石切丸に押され尻餅をつく形になった山姥切国広は、驚きにその美しいかんばせを染めていた。石切丸はそこそこの馬鹿力である。尻餅をつくのは仕方がないだろう。
「鶴丸、刀をしまいなさい」
凛とした声で、石切丸が言う。
鶴丸国永は大人しくその言葉に従った。
「手合わせ以外での抜刀、道場以外での私闘は禁止だ。違ったかな?」
石切丸は山姥切に確認を取るように言うと、にこりといつもの優しい笑みを浮かべた。
「あ、あぁ。その通りだ」
「ということで、鶴丸、きみのことは主が帰ってきたら報告させてもらうよ」
「……帰ってきたら、な」
石切丸の言葉にも、鶴丸国永は含みをもたせた返事を返すばかりだ。困ったように、ふむ、と顎に手を当てた。