第6章 閑話休題:大倶利伽羅
けれど、ほっとしたのも束の間だった。
その場に、鶴丸国永が現れたのである。
「なんだ?どうした?」
鶴丸国永は、随分と落ち込んでいるように見えた。疲れているようにも見える。
広間のただならぬ様子に首を傾げる様子も、口調すらいつも通りのように思えるが、大倶利伽羅から見れば一目瞭然だ。
「鶴さん、」
燭台切光忠は彼を一瞬気遣うように見つめた後、少し迷って口を開いた。
「主が、阿津賀志山へ行ったんだって」
「そういうことか。…それなら知ってるさ。俺も、止めたんだがな」
無理だったよ。
鶴丸国永が、そう言って力なく笑った。
「でも、」
そこで終わりかと思った言葉には、続きがあった。
迷っているような響きを持ちながらも、どこか剣を含んでいる。その視線の先は、山姥切国広だ。
落ち着きかけていた広間の空気が、再び緊張感に包まれる。
「きみは違ったんじゃないか」
問うていながら、それは最早確信だった。
ごくり。思わず、大倶利伽羅は唾を飲む。
恐怖からか、緊張からか。
自分でも理解しえない感情を纏って、身体が震える。
「違った、とは」
空気は張り詰めていた。
さながらバックドラフト現象が起こる前の、静けさのような。
「きみが行くな、と言えば、主は行かなかった。違うか?」
「………」
視線は、一気に山姥切国広に集まる。
再び、責めるような眼光が貫ぬくように彼を見ている。