第6章 閑話休題:大倶利伽羅
「あれから、あの日から、」
「今日で…、6日目です」
燭台切国広の言葉に答えたのは、堀川国広だった。
その表情は硬く、心なしか顔色が悪い。
「国広」
和泉守兼定が、気遣うように相棒の名を呼んだ。
「兼さん…」
瞳はゆらゆらと揺れていた。不安がありありと浮かんでいる。
「兼さんは、知ってたの?」
堀川国広の言葉に、今度は和泉守兼定に視線が刺さる。
和泉守兼定は何と言おうか考えて、やがて諦めて白状した。誤魔化しても意味のないことだ。
「ああ、知ってた」
堀川国広の顔がぐにゃりと歪む。うっすらと瞳に浮かぶ涙は、きっと気のせいなんかではないのだろう。
こんなに不安定な堀川国広を、和泉守兼定は初めて見た。
「なんで、どうして」
「…主から聞いた」
重苦しい沈黙が横たわる。
和泉守兼定は、居心地の悪さに思わず出そうになるため息をなんとか飲み込んだ。
「それで」
次に口を開いたのは、加州清光だった。
「それで、和泉守は、主を止めなかったわけ」
確認するような響きだ。激情を抑えようと努めているのが、震える拳から伝わってくる。
「………」
「なに。なんで黙んの」
和泉守兼定は、ただ下を向くことしかできなかった。
止められれば、どれだけよかっただろう。でも、そうしなかったのは自分だ。
答えることのない和泉守兼定に、加州清光はとうとう痺れを切らせた。
「黙ってないでさぁ!なんか言えよ!」
まるで今にも掴みかかりそうになる加州清光の怒鳴り声が響く。
堀川国広が慌てて間に入った。
「加州くん!落ち着いて!」
「落ち着けるわけないじゃん!今までとはわけが違う、主の生死がかかってんだよ?!そのこと、ちゃんと分かってんのかよ!堀川だってそう思ってんだろ!」
加州清光の言葉は最もだった。
色んなことがあった本丸だけれど、今回のことは今までとはあまりに状況が違った。