第6章 閑話休題:大倶利伽羅
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刀剣男士たちが男の不在に気づくのに、時間は要さなかった。
「主君はいないのですか?」
ぽつり、邪気のない声でそう言ったのは秋田藤四郎だった。
その言葉にその場に集まっていた刀剣男士たちは皆一様に動きを止め、秋田藤四郎を見る。
秋田藤四郎は一気に自身に集まった視線にあたふたするも、思ったままのことを口にした。
「いえ、あの、主君の気が薄いなぁって思って…」
口にした途端自信をなくしたのか、言葉尻が小さくなっていく。
大倶利伽羅は事の成り行きを黙って見守ることを決めた。
勘付いているものはいるだろう。それでも知っているものは少ないはずだ。
男が言った通りならば、行くことを知らされたのはあの場にいた四振りと、三日月宗近くらいか。あとは鶴丸国永。乱藤四郎…には、自ら言ってはなさそうだな。
頭の中で一通り顔ぶれを思い返しては、そう位置付けた。
今日の近侍は山姥切国広である。まあ、妥当だろう。
主不在の本丸を仕切るのに、山姥切国広ほど適しているものはいない。
「主の気が薄い…それは、」
一期一振が考え込む。
その横で、燭台切光忠がはっと息を呑んだ。
「今日って、あれから何日たった?」
声は不安げに揺れていた。
そこに込められた感情が、きっとこの場にいたいくつもの刀には手に取るように分かったことだろう。
刀剣男士には年月の認識というのが、どこかぼんやりしているところがある。
何百あるいは千年を越す年月を過ごしてきたのならそれは当然とも言えることだった。
日毎を追うなど、今までそれほど意識をしてこなかったのだ。