第6章 閑話休題:大倶利伽羅
「できるだけ怪我をして欲しくない。俺のダメなところがあれば言ってほしい。自分でもできた主だなんて思っちゃいない。だって、戦略も刀のことも、お前たちの歩んできた歴史も、俺は全然知らない。だから、教えてほしい」
真っ直ぐ、曇りのない瞳だった。
それは、大倶利伽羅が顕現した瞬間に見せた輝きと似ている。
「…分かった。主、俺も詫びよう」
静かに、落ち着いた様子で言ったのは、山姥切国広だ。
「すまなかった。あんたを、主を軽んじていた。…主を信じよう。信じて、主に仕えよう。だから、あんたも俺たちを信じてほしい。俺たちの力を、信じてはくれないか」
芯の通った声だった。意志のある声だった。
山姥切国広に続けて、薬研藤四郎が、にっかり青江が強く頷く。それは、彼らが男に忠誠を誓ったことを表す。審神者を主であることを、本当に本心で認めたことを表す。
やがて、三振りの視線は大倶利伽羅へと移される。
さあ、ほら、最後は君だ。君の番だ。彼らが視線で促した。
それは、確信していて、それでもなお、大倶利伽羅の口から言わせようとする三振りの思惑だった。
大倶利伽羅は舌を打つと、少ししてから観念したようにため息を吐き出した。
「…謝りはしない。俺は、自分の言ったことが間違っていたとは思わないからな」
「うん」
「ただ、」
言葉が止まる。
誰も急かしはしなかった。言わせようとはしなかった。それは他人に言わされたのでは意味がない言葉だ。大倶利伽羅が思って口にして、初めて意味をなす。
大倶利伽羅は男を見つめた。まっすぐ、ただ、見つめた。
馴れ合わないつもりだった。深くは関わらないつもりだった。認める日が来ないならば、それはそれでよかった。ただ、自らに与えられた使命を全うするつもりだった。
けれど、ああ、そうだな。こうなっては、認めざる得ない。
「ただ、あんたの刀であること異論はない」
それが、大倶利伽羅の答えだった。