第6章 閑話休題:大倶利伽羅
初めてだ。
その時、その瞬間。大倶利伽羅は初めて男を美しいと思った。姿形がではない。その魂が美しいと思った。
そして理解した。何故、自分がこの男の呼びかけに応えたのかを。
そうだ、俺は、この人間の魂に惹かれて、ここにいる。
すとんと腑に落ちた。
気にくわないことはある。情けない姿を知っている。主と呼ぶにはあまりに幼く拙い。戦場のことは知らないし、刀のことを理解できていない。
きっと、他の審神者に比べても遥かに未熟だろう。
けれど、確かに惹かれたのだ。
この人間の元ならいいかもしれない。この人間の元がいい。そう望んで応えたのは、紛れもなく自分たちだった。
「なあ、俺のことをもっと、ちゃんと、知ってくれないか」
その言葉に、大倶利伽羅は目を丸くする。そしてそれは、目の前の男も同じだった。
言葉にして、初めて理解できたのだと分かるような表情をしている。
「そうだ、俺は、お前たちに俺のことを知ってほしいし、俺だってお前たちのことを知りたい」
全く知らないわけではなかった。
例えば好きな食べ物とか、こういう性格だとか。ふつうに話はするし、大倶利伽羅以外の三振りと男は、側から見て仲が悪いようには見えなかった。実際、悪いわけではないだろう。
ただ、どこまでも表面的だった。
当たり障りなく、気まずくならないように、衝突を避けるように。少しの不満を、本当の言葉を、飲み込んでしまうことがあった。
それでは駄目なのだと、この瞬間、四本の刀と一人は知った。