第6章 閑話休題:大倶利伽羅
「っまてよ!」
大倶利伽羅が立ち止まり、振り返る。
つかんだ手を払うことはなかったが、視線で離せと訴えることは忘れなかった。
男は一瞬ひるんだ様にも見えたが、手首を離すことはせず、大倶利伽羅を強い視線で見つめた。
「俺だって一生懸命やってんだよ。一生懸命やって、それが今なんだよ。何故維新から遡らないって、そんなの、怖いからに決まってるだろ」
「………」
「お前たちには、分かんないよな。でも、俺は平和な環境で育ってきたただの人間で、あんな怪我、見るのだって初めてで、だから何だって思うかもしれないけど、今更なんだって言うかもしれないけど、本当に死ぬんだって…、怖くなった」
「…死にはしない。折れることはあっても、なくなりはしない。次がいるからな」
その言葉に、男は勢いよくかぶりを振った。
「ちがう!」
男が叫ぶ。
「ちがう。それはちがうんだ、大倶利伽羅。次がいるなんて言うな。言わないでくれ。
お前の代わりなんていないんだ。名前が一緒でも、性能が一緒でも、見た目が一緒でも、それは代わりなんかにはならないんだ」
それは、今までで一番必死な男の言葉だった。なにより、心へ訴えかけてくるものだった。
そんな男の様子に、四振り全員が目を疑った。
「だって、この数ヶ月、数週間を共に過ごした記憶を持っているのは、お前たちだけなんだ。俺が情を抱いたのは、俺の目の前にいるお前たちなんだ。なあ、分かってくれ。それだけは、俺は譲れない。譲っちゃいけないんだ」