第6章 閑話休題:大倶利伽羅
「あんた、俺たちを舐めてるのか」
その日、ついに大倶利伽羅はその言葉を口にした。
出陣を終えた後だった。移転先は函館。時代は維新の頃。負傷者はゼロ。
しかしそれがなんだと言うのだ。
練度が上がっている大倶利伽羅たちにとって、それはあまりに侮辱的な行為であった。
大広間にいたそれぞれが、口をつぐみ手を止めた。書類を片していた男も然り。
男は突然の言葉に内心どきりとする。筆を持つ手が動揺で震えた。
「っ急に、どうした…?」
なんとか絞り出した声は、無様に上ずっていた。
大倶利伽羅が鼻で笑う。それは苛立ちを誤魔化すためでもあった。
「急にだと?とぼけるな。俺はあれからずっと思っていた」
「あれからって…」
「俺が重傷を負った時からだ」
ピンと空気が張り詰める。
薬研藤四郎が大倶利伽羅を咎めるように見ていた。けれど止めはしない。それは何も、大倶利伽羅だけが思っていたわけではないからだ。
「何故俺たちを向かうべき戦場へ送らない。何故いつまでも維新から遡ろうとしない」
「そっ、れは…、だって、」
「俺たちが怪我を負うからか?そんなのは当然だ。俺たちは刀だ。戦うために作られた」
「…………」
大倶利伽羅の言葉に男が黙り込む。
この時の男の感情を、今でなら大倶利伽羅は理解できるだろう。しかし当時は無理だった。過ごして来た日はまだ浅く、互いに歩み寄ろうともしなかった。相手を知れなくて当然だ。