第6章 閑話休題:大倶利伽羅
大倶利伽羅が重傷を負って数日。
男は、ひどく出陣を恐れるようになった。
それも無理はない。
男は現代で育ったごく普通の人間で、生々しい傷跡など、ましてそれが敵意を持って故意的につけられたものなら尚更、耐性など持っていないし、本当に心臓の止まる思いをしたのだ。
しかしそれを彼ら刀剣男士が理解できるかといわれれば、話は別だった。
逆に、彼らからしてみればそれこそが自分たちの日常であり、普通であった。
彼らのかつての主らもそうだった。自らを守るため、誇りを貫くため、時には敵の首を刎ね、仲間の首が刎ねられ。
あまりにも見て来たものが違った。生きた時代が違った。
だから男には刀剣男士のことが分からなかったし、理解ができなかった。しようとは試みたけれど、互いをそれほど知っているわけではないので、どうしたって限界があった。
一方で刀剣男士は、この状況に嫌気がさしていた。苛立ちすら感じていた。
刀は使われてこそ真価を発揮する。戦場でこそ、己の価値を見出せる。なのにこの審神者ときたら。
それぞれが思うことはあれど、特に顕著だったのが大倶利伽羅だった。
元々大倶利伽羅は審神者のことをあまりよく思ってなかったから、拍子がかかったのだろう。
明らかに練度と合っていない出陣先は、まるで舐められているようにも、己の存在を軽んじられているようにも感じた。
たった一度の重傷であまりにも出陣を恐れる審神者は、矢張り主と呼ぶには不相応で頼りない。
更には、何を恐れているのか、男は大倶利伽羅と碌に目も合わせようとしなかった。
そうして、溜まりに溜まった鬱憤が爆発するのにそれほど時間は要さなかった。