第5章 瑟瑟と
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ゲートを抜け阿津賀志山に着くと、三日月宗近とはそこで別れた。
お守りだと言って貸してもらった髪飾りを手に握る。
ここからは、自分一人だ。
誰も助けてはくれないし、味方は囚われている五虎退だけ。
その五虎退だって無事だという保証はない。
男は高ぶる感情を落ち着かせるために、一度おおきく深呼吸した。
場所は阿津賀志山。
男は初めてくる場所だ。
成る程、現代とはやはり違う。
男は生まれも育ちも都会とは言い難い、いわゆる田舎であった。
だが、その田舎でも男の時代にはすべてがひとの手で管理され作られたものだった。
男は当たり一面を見回し、とりあえず山を登ることにする。
詳細を何も知らされていない状況で、圧倒的不利にもかかわらず、それでもここに来ることを望んだのは男自身だ。
べきり、枝を踏みつける音が自分の下から聞こえてくる。
徒歩ではない。足として使っているのは馬だ。名を望月という。
乗馬は初めてではないので、勝手はある程度分かっているつもりだ。
手綱を引いて、励ます。
この山道でも望月は難なく登って行った。
さすが普段から刀剣男士たちと行動を共にしてあるだけのことはある。