第5章 瑟瑟と
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朝が来た。
陽はまだ昇っていない。
朝特有の静けさの中、男は出来るだけ音を立てないよう、そっと鶴丸国永の腕の中から抜け出した。
布団から出た途端、身を包むひんやりとした空気。
身震いを一つ。
とうとう、この日がきた。ついに。やっと。もう。
こころを占めるのは、今、占めているのは、何の感情だろうか。
不安?恐怖?それとも愛情、憎しみ?或いは悲哀や罪悪感?
きっと全部だ。
ぜんぶが男の胸を占めている。
男はしゃがんで、そっと鶴丸国永の形の良い耳へ顔を近づける。
そして、たくさんの愛情をもって囁いた。
「ごめん、…いってきます」
だいすきなひと。だいすきなひと達。俺の居場所。俺の帰ってくるべきところ。五虎退の帰ってくるところ。
たくさんの想いをこめて、男は鶴丸国永の顳顬にキスを落とした。
唇を離すと、数秒間を置いて立ち上がり、この部屋を出ていった。