第5章 瑟瑟と
「なぁ、なんで分かってくれねぇの?俺が真名を教えるのは、鶴を信じてるからだよ。何をされたって、赦してしまうくらい、」
そこで男は言葉を止めた。
この先を口にするのには、ずっとずっと勇気がいた。
重い言葉だ。なにより大切な言葉だ。
音にした途端、その価値を失ってしまいそうで男は躊躇する。
鶴丸国永は男を見つめた。
先ほどまで宿っていた怒りはなりを潜め、今度は疑惑が頭をもたげる。
訝しむ鶴丸国永に気づかないまま、男はゆっくりと、消えてしまいそうな声で囁いた。
「お前を、あいしてるから」
伏せられた顔から、表情を伺うことはできない。
それでも、鶴丸国永は確信していた。
男は今、きっと、泣きそうな顔をしている。
その身体を抱きしめて、目尻にキスを落として、ごめん、俺もあいしてるよ、と言ってやれば、そのまま男の身体に触れることができるのだろう。
でも、鶴丸国永はどうしてもそうはできなかった。
この疑惑を晴らさなくてはいけない。ただの杞憂であればいい。鶴丸国永の考えすぎならいい。
けれど、もし己の考えが杞憂でもなんでもないとしたら。
鶴丸国永は想像して、恐怖した。
例えどんな強敵が現れようとも怖いと思ったことなど一度もない自分が、今は確かに恐怖に苛まれている。
まるで舌が鉛のように重い。口内は乾ききって、動かせばばりっと音がしそうなほどだ。
慎重に、けれど直入に、鶴丸国永は問うた。