第5章 瑟瑟と
やがて、鶴丸国永が口を開いた。
「きみ、自分が何をしようとしてるのか、分かっているのか」
口調は静かだった。これは相当怒ってる。
掴まれた腕は痛いし、怒りのためか滲む神気は人間である男にはきついものがある。
くらりと眩暈を起こしそうになって、なんとか堪えた。
「…分かってる」
男が静かにそう言えば、鶴丸国永はわざと放っていた神気を緩めた。
男を苦しめることは本意じゃない。
「いいや、主は分かっちゃいない」
そう、分かっちゃいないのだ。この男は。神に自らの真名を教えることが何を意味するのか。
鶴丸国永はわざとらしくため息を吐き、真名を教えることが如何に危険な行為であるか説明する。
「いいか、俺に真名を教えるということは、きみは俺に逆らえなくなるという事だ。俺が今ここできみの名を呼び命じれば、きみは簡単に死ぬ。俺が望めば主従が逆転することだって可能であるし、神隠しだってできる。なぁ、それがどれ程ひとにとって恐ろしいことか、きみには分かるか」