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とうらぶっ☆続

第4章 束の間の休息



「最後は、」
「うん」
「言葉にできない、そんな不安」

男は、にっかり青江と自分の間にあるお猪口の縁を指でなぞりながら言った。
外の風に晒されて冷えてしまった陶器は、その冷たさからつきりと指に痺れをもたらす。

「そう…」

にっかり青江はそう頷いて、目を細めた。髪の隙間から見える、色違いの瞳が艶やかで美しい。

「大丈夫だよ、君には彼だってついてるんだから」

まるで、幼子に言い聞かすように。にっかり青江が大切なものを愛でるように、男の頭をなでる。
男はにっかり青江の言う彼が誰なのかいまいち分からずに、小さく首を傾げた。
すると彼はふふ、と笑って、答えはくれずともヒントを与えるように、男に助言する。

「いいかい、今君が懐に入れているものも、ちゃんと持って行くんだよ」

懐に入れているもの、と聞いて最初に浮かんだのは秋田十四郎の短刀だ。本人たっての希望で、男の霊力と馴染ませるためにここ二日ほど懐に入れていた。
だが、秋田十四郎の本体を持って行くことをにっかり青江が勧めるとは考えづらい。

ならば、もうひとつの方だろうか。

男は着流しの上からそれに触れた。
そこにはお守り袋に刀の欠片を入れたものが入っている。薬研十四郎のものだった。
にっかり青江の言う彼とは、もしかして薬研十四郎のことなのだろうか。

男が答え合わせをするように、にっかり青江の瞳を見つめる。

「柄と鞘も、できればもっていくといい。君を守ってくれるからね」

その言葉が、答えだった。

男は不意にこみ上げてくる熱いものを堪えきれず、それは涙となって溢れる。
喉が狭まって、ぐぅ、と不細工な音が漏れた。

薬研。俺の薬研。
俺を護ってくれる、いとしい神様。
できることなら、俺と五虎退を守ってほしい。

当たり前だろ、大将。

そんな声が、聞こえた気がした。

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