第4章 束の間の休息
「……なにがそんなに不安?」
にっかり青江は、そっと尋ねた。
「うーん…なにかな……」
男の胸には、不安が巣食っている。でもそれが何かというのは、男にも分かっていなかった。
だから、思ったままを素直に口にする。
「きっと、不安なことはいっぱいあるんだ。五虎退のこと。あいつ今頃泣いてねぇかな、とか、怪我は大丈夫かな、とか」
「彼は泣き虫だからね。でも、本当はつよい心の持ち主だ」
「そう、だな。たしかに、五虎退は泣き虫でつよい」
目を伏せる。視界にぼんやり映る砂利を、じっと意味もなく眺めた。
「他には?」
「………自分のこと」
「君のことかい?」
「うん、俺のこと。本当に帰ってこれるか、五虎退をちゃんと連れられるのか、…鶴を前にして、決意が揺らがないか」
「ふぅん…。でも、君は帰ってくるんだろう。彼を連れて。恋人を前にして、諦められなかったんだろう。なら、その決意は本物さ。揺らぐことは誰にだってある。だって、君は人だからね」
ひとつひとつ。丁寧に帰ってくる言葉に、否定の意を示すものはない。
にっかり青江の言葉は、いつだって男を肯定するものばかりだ。それに救われている。