第4章 束の間の休息
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秋の匂いに混じって、冬の静寂が夜を支配する。
つい先日まで鳴いていた秋の奏者たちは息を潜め、頬を撫でる風が無機質さを感じさせる寒さを連れてきた。
男は澄んだ星空を眺めながら、煙草をくゆらしていた。
吸うのは久しぶりだった。もともと喫煙自体が少ないから、それも当然といえば当然だ。
熱燗の横に置いた灰皿に軽くとんと叩けば、役目を終えた先端がほろほろと崩れ落ちていく。
少しばかり短くなった煙草をまた唇で挟み、味わうように煙を吸い込んだ。
「君が煙草を吸うのを見るのは、久しぶりだな」
そう声をかけてきたのは、にっかり青江だった。
背景と混ざってしまいそうな紺を纏い、うつくしい左目を光らせているその姿は、霊を切ったというに相応しいように思う。
驚きはしない。彼が男にも分かるようにと気配を滲ませていてくれたから。
「久しぶりに吸ったしなぁ」
ふぅ、と男の口からはしろいけむりが吐き出される。
にっかり青江はそれを面白げに眺めながら、彼の隣へと腰掛けた。
男が喫煙していることは、にっかり青江だけがしる事実だった。彼だけが知る、おとこの秘密。このことは、あの初期刀だって知らない。