第4章 束の間の休息
「な、国広」
「………」
「俺はお前に従う」
「……………」
「くにひろ」
男が名をつらねる。
それはまるで呪いのようだ。
きっとこの男は山姥切国広がだめだと言えないと、言わないと分かっていて、それでも許可を求める。
まったく、ほんとうにひどい男だ。
山姥切国広が一言、「行くな」と言えば男は行かないだろう。
幾重もの刀に反対されたって、愛する恋人から反対されたって聞かなかったその言葉を、山姥切国広が言えば男はそれに従う。
それほどまでに、ふたりは互いが特別だった。
けれど、山姥切国広はその言葉を言わない。あえて口にするのは、男の求めている許可だ。
「……分かった」
はっきりとそう、山姥切国広が口にすれば、男はありがとうと言った。
男を行かせたいわけではない。本当は行ってほしくない。
けれど、信じてるから。愛してしまったから。
こんな主だから惚れてしまった。惹かれてしまった。きっと誰にもわからない。誰にも触れられない。届かない。
ふたりは何よりも特別な絆で、かたくかたく結ばれていた。
こういうのを唯一無二の存在と言うのだろう。
言葉にはできない感情が山姥切国広を動かす。
「ほんとうに、ありがとうな」
「ふん、本当にそう思ってるなら、ちゃんとここに帰ってくることだな」
「分かってるよ。帰ってくるさ、五虎退と一緒に」