第1章 契り
「ふぃー。戻り戻りー…ってどうしたの?」
「ふたりとも何で固まってるの?」
「主いつもに増してアホ面ですね!」
「鯰尾、主にアホとはいい度胸だな」
「冗談ですってー」
「はっはっは、小夜や、ただいま」
「え、あ、おかえり、三日月」
それぞれがそれぞれ何だなんだと喋っていれば、それまで固まっていた今剣がついに動き出した。
広げていた両手を下ろし、その肩はふるふると震えている。
つられてフリーズが解けた男も両手を下ろし、首を傾げた。
「今剣…?どうしーー」
男の言葉は途中で途切れた。
ぼうっ、とまるで油が注がれた火のように、今剣の殺気が膨れ上がったからだ。
思わずぽかーんとする周囲に、三日月宗近だけが朗らかに笑っていた。
「あるじさま」
今剣が呼ぶ。
口は笑っているのに、目が全く笑っていない。
男は即座に返事をした。
「はいっ」
「つるまるはどこですか?」
ボキ、コキ、と首筋や指の関節を鳴らしながら今剣が問う。
男は事情を聴くのも何もかもすっ飛ばして、右を指差した。
「て、手入れ部屋…」
たり、と米神を汗が伝って、しかし内心では鶴丸国永に突っ込むことを忘れない。
つるお前何した!!
こりゃあまた手入れしなきゃならんことになるんじゃねーの、と冷や汗をかいていると、蛍丸が納得言ったように声を上げた。