第4章 束の間の休息
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翌日、広間ではミーティングが広げられていた。
内容は二日前のこと、そして五虎退のことの主に二つだ。
「僕は反対だね。主一人で阿津賀志山なんてどう考えても無謀だ」
「かせんのいうとおりです。ぼくもはんたいです」
頑固として譲らない、といったようなふた振りに男は頭をかく。
どうしたものか。っつーか、俺まだ行くって言ったわけじゃねーのに。
言えないのには理由があった。いや、言う言わない以前に、男はどうするか決めかねていた。
心は行く方向でほとんど固まっているのに、ここにいる刀たちの顔を見るとその意思はたちまち揺らいでしまう。
歌仙兼定の言うとおり、男ひとりで阿津賀志山に向かうということは確かに無謀であった。
男が素直にひとりで行って、何もせずあちらが本丸へ返してくれる可能性なんてほぼ皆無だ。それが分からない程目出度い頭はしていない。
でも、ならば、五虎退はどうなる。
「お前たちの言ってることは分かる。俺だってそう思うし」
「なら、大人しく俺たちに任せてよ」
「清光、でもな、そうはいかないんだよ」
男が固い声でそう言えば、加州清光は口を閉ざし顔を歪めた。
なんで?どうして?とその顔にはありありと書いてある。
「たしかに、俺たちがいったところで向こうは姿を現さない可能性の方が高いですもんね」
鯰尾藤四郎の意見に、男は頷く。
「それだけならまだいい。もし…、もし、五虎退が折られたりでもしたら…」
そこまで言葉にして、男は生唾を飲んだ。想像してぞっとする。
泣き虫でどこまでも優しいあの少年は、今このときも、暗くて誰一人味方のいない場所で、敵ばかりに囲まれて助けを待っているのかと思うと心は急くばかりだ。