第4章 束の間の休息
「底の方に俺の意識はあって、それでも身体が思うように動かない。あれは本当に、こわかったな」
その触れてる手が僅かに震えてふことに気づいて、男は目を伏せた。
「君に刀を向けたことを、はっきり覚えてる。君の皮膚を刀で切り裂いた感覚を覚えてる」
声がわずかに震える。
男は鶴丸国永の告白を傷む胸を押さえつけながら聞いていた。
「こわかったんだ、きみを傷つけた自分が、おそろしかった、おれは、あと少しできみを殺していたかもしれない、そう思うと…ふるえが止まらなくなる」
ふるえる、ふるえる。
彼の声、まつげ、てのひら、ひとみ。
ふるふると震えるそれらは、彼の激情を抑えてる反動なのだろうか。
「きみが生きていて、ほんとうによかった…っ」
声は限りなく涙に濡れていて、けれど彼は涙を流していなかった。
「つ、るまる…」
男は一度名前をつぶやいて、それから今度は自ら鶴丸国永にぎゅうと抱きつく。
「ばか、おれはそんな簡単にしなねーよ。おまえたちを置いて、しねねーよ」
ぼろり、と、睫毛の防波堤を越えて鶴丸国永の瞳から、ついに涙がこぼれた。
「こんな傷、おまえたちに比べればどってことない。生きていれば傷は治るんだ、だから、そんなに自分を責めるなよ」