第4章 束の間の休息
男が障子の前で考え込んでいると、返事の代わりに障子がすっと開いた。
目の前には、鶴丸国永が立っている。
「そろそろ来る頃だと思ってたんだ、入ってくれ」
そう言って男を部屋に招き入れた鶴丸国永は、少し疲弊を見せて笑った。
男はそのことには触れず、大人しく部屋に入ると適当に腰をかけた。
部屋にあるのは灯された蝋燭の明かりだけで、すぐそばに敷いてある布団から、もう就寝前なのだと知る。
男はいつもと変わらない彼の部屋をひっそりと見回した後、早速本題に入るべく口を開いた。
「…身体は、平気なのか?」
「ああ、この通り。きみに手入れもしてもらったんだ、傷は一つも」
会話はいつもどおり。受け答えも特におかしなところはない。
けれど、男には分かる。
だって、ずっと見てきたのだ。ずっと想ってきたのだ。鶴丸国永が男の元へ来たその日から、ずっと。
だから分かる。
本当は深く傷ついていることも、後悔の念に駆られていることも、罪悪感に押しつぶされてしまいそうなことも。
ぜんぶ、苦しいことは裏に隠して、決して男に見せようとしない。
それが何故だか男は知っている。わかっている。
こういう時、今の関係性を男はほんの少し恨めしいと思ってしまう。
鶴丸国永はかっこうよくて、うつくして、かわいくて、あいらしくて、そしてつよい。
男にとって鶴丸国永とは、言葉にするならそんな刀だ。
そして知らず、そんな鶴丸国永を男は望んでいた。望んでしまっていた。
彼は賢いからそれを汲み取り、理解して、男に弱い部分を見せようとはしなかった。
それは単に、すきな人の前では格好良くありたいという、男性にすれば当たり前ともいえる考え。
だから、もし、男と鶴丸国永が恋仲ではなければ。例えば家族のような関係、友人のような関係、主従の関係、それらの関係であれば。
鶴丸国永は全てを男にさらけ出したのかもしれない。弱さも、恐怖も、畏れも、すべて。
それが今の関係では見せてもらえないのが、男にはすこし疎ましかった。