第4章 束の間の休息
22
加州清光が落ち着いてから、男は次に違う刀の部屋へ向かった。
術をかけられたことによるメンタルケアもだが、同時に術の後遺症や違和感がないかをひとりひとりに聞いて回る。
ひとりを残してとりあえず大事ないと分かったところで、夕餉を挟んだ。
まだいつも通りどまではいかずとも、ぎこちない雰囲気はそこにない。これなら心配はないだろう。
男も薬研の一件から強くなったのだ。彼らとの絆に亀裂が入るようなことも、脆くなるようなこともなかった。
そうして夕餉を終え、ある程度まで残っていた仕事を片付けると、男はまだ向かっていなかった鶴丸国永の部屋へと幾分か迷ってから向かった。
声をかけようとしては口を閉じ、という行動を何度か繰り返し、男はぎゅっと目を瞑る。 ゆっくりと息を吸い込んで、覚悟を決めたように拳を強く握った。
「つる、…入っていいか?」
男はできるだけ声が震えないようにと努める。
緊張していた。
いつだって、男は鶴丸国永が傷つく姿を見るのは苦手だった。
けれど今からしようとしていることは、間違いなく鶴丸国永を傷つけてしまうだろう。悲しい顔をさせてしまうかもしれない。
手入れ部屋でだって、夕餉の時にだって、鶴丸国永が男の首に巻かれている包帯を見ては、泣きそうに顔を歪めるのを知っていた。
昨日のことを思い出して、自ら傷をえぐって、でも彼はつよいひとだから己の行いを許すことも目をそらすことも自ら戒め、許さない。
すきな人に刀を向けてしまったというのは、すきな人の身体を傷つけてしまったというのは、殺そうとしてしまったという事実があることは、きっと想像することすらおこがましいほど、つらくていたい。