第4章 束の間の休息
「っ主君は、…主君は、行くつもりなのですか」
決して大きわけではないのに、その悲痛なまでの声は手入れ部屋によく響いた。
男は口を何度も開閉させて、結局は口を閉じるに落ち着く。
まだ、決めあぐねているのだ。
五虎退を、あきらめられない。
けれど、果たしてここにいる刀剣男士たちは納得してくれるだろうか。
男にだって、彼らにとって自分がどれほど大切な存在なのか理解しているつもりだ。
だから、言えない。
簡単に、行くつもりだとは言えなかった。
沈黙に流れる男の思考を、そこにいた刀たちは皆理解していた。
主はそういう人だ。
刀剣男士を家族のように、友のように、良き相棒のように慈しみ、心を砕く。
刀剣男士がひとり折れることは、いなくなることは、男の世界の一部が崩れるのと同意義であった。
それを理解している彼らであるからこそ、男の考えていることが分かる。
「…ごめんなさい」
ぽつりと、涙に濡れた小さな声が男の鼓膜を揺らした。
男は瞳を揺らめかせながら、声のした方ーー発した秋田藤四郎の方を見る。
見て、ぎょっとした。
その空色の瞳から、大粒の涙がぼろぼろとこぼれていたから。