第1章 冷たい手【刀剣乱舞 大倶利伽羅】
半年後。
私はまだ自分自身を赦すことはできないけれど、なんとか審神者を続けている。新しい仲間も増えて、本丸も賑やかになった。でもどんなに鍛刀しても、大倶利伽羅を鍛刀することはできなかった。私の、私にとっての大倶利伽羅は彼だけなのだから、当然かもしれない。
「では主、今日の資材はどのような配合に致しますか?」
今日の近侍は長谷部だ。資材の量をチェックしながら、指示を出す。
「うーん、じゃあ550、660、760、550でいってみようか」
「かしこまりました」
鍛治妖精に資材を渡すと3時間という鍛刀時間が示される。時間的に未だに来ない三日月や小狐丸ではない。となると、太刀の光忠か山伏か獅子王あたりか。大太刀の蛍丸という線もある。とりあえず手伝い札を使うことにしよう。
「長谷部、手伝い札を使って」
「主命とあらば」
手伝い札に霊力を込める。すると鍛治妖精の動きが早くなり、瞬く間に一振りの打刀が鍛刀された。
「これは……」
見覚えのある拵。これは、この拵はまさか。まさかまさかまさか。
慌てて霊力を込めると、まばゆい光が辺りを包み、桜が舞った。
「大倶利伽羅だ。……何故お前がいる?」
「大倶利伽羅……もしかして私の倶利伽羅、な、の……?」
「俺は……折れたはずじゃなかったのか?」
薄紅の花が舞う中に、彼がいた。望んでも、どんなに望んでももう逢えないと思っていた愛しい恋人が目の前にいる。ああ、彼の本霊はなんと優しいのだろう。思わず伸ばした手を、彼が取る。冷たい手。間違いない、私の倶利伽羅だ。
「倶利伽羅……倶利伽羅、良かった、また逢えた」
「ああ、また逢えた」
抱き寄せられた腕の中で、そっと涙を拭う。
「もう忘れたりしないから、二度と離さないで」
「ああ……二度と離さない」
こんなにも優しく温かな冷たい手を、私は知らない。