第1章 光忠夢01
「ほんとに光忠さんて料理が上手で良いなぁ。」
「ん?柚希ちゃんだってちゃんと出来てると思うよ。」
並んで野菜を切りながら柚希ちゃんの手元を見る。
綺麗に切れてるし、手際も良いし、何の問題も無いと思うんだけどな。
「いやいや、だって光忠さんには及ばないもん。」
光忠さんならいつでもどこにでもお嫁さんに行けるよね、と言われて少し固まる。
………僕が伊達から水戸徳川に行く前に、そういえば嫁入りって言われたなぁ…なんてついつい遠い目をしてしまったら不思議そうな柚希ちゃんの声が聞こえた。
「光忠さん?」
「…あぁ、ごめん!ちょっと、お嫁さんで政宗公の所であったことを思い出してね。……でもさ柚希ちゃん、一応男の見た目の僕にお嫁に行けるっていうのは違うと思うんだけど?」
「あ、そう言われたらそうだよね!そっか、じゃあー…お婿さんに行ける?」
「うん、まぁそれならオーケーかな。……でもお婿さんになるなら…」
包丁を持っていないタイミングなのを見計らって、柚希ちゃんの左手を取る。
それから彼女の薬指に軽く口付けた。
「…僕は柚希ちゃんのお婿さんになりたいな。」
どう?と近い距離で目を見ながら微笑むと柚希ちゃんの顔が一気に真っ赤になった。
うん、ちゃんと分かってもらえたみたいで何よりだ。
「え、え、み、光忠さん、何を……!?えぇ?!」
慌てふためく柚希ちゃん。
可愛いからもう少し見ていたいなとは思うけど、今日はこのくらいにしておこうと名残惜しく思いながらも手を離した。
「…さ、続きをやろうか。野菜、煮込んじゃうね。」
「え、あ、は、はい…………。」
あっさり僕が切り替えたからだろう、柚希ちゃんは狐につままれたみたいな顔をしていて、笑いがこみ上げそうになる。
…今は少し意識してもらえるようになるだけで良い。
だけどいつか本当に皆の主じゃなくて僕だけのお嫁さんになってくれたら良いのにな……なんて、ね。