第8章 長谷部夢01
「は?…え?誰が?まさか私が?光忠と?いやいや、無い無い!光忠は頼りになる兄って感じだし!…というか今朝、そんなことあった記憶が…………あ、もしかして。」
そういえば顔を近付けた時があった。
そうか、あれを勘違いしたのかと納得して…つい、吹き出した。
不思議そうな顔をした長谷部に理由を話す。
「あれはね、長谷部。私が目にゴミが入ったーって言ったら光忠が見てくれただけだよ。光忠の背中側から見たんでしょ?」
「…つまり、俺の勘違い……だったんですか?」
「うん、そういうこと。」
私が頷くと、一瞬ホッとした顔をした後に長谷部は真っ青になった。
「も、申し訳ありませんでした…!!俺は、貴女に酷いことを…!」
「そうねー、唇は切れたし、信頼しあってると思ってた恋人に浮気を疑われたし?…まぁ、私も思いっきり平手打ちしたけど。」
痛くない?と叩いた方の頬にそっと触れるとまた泣きそうな顔をして、長谷部は頷いた。
「…はい、これは俺が悪いんですから柚希様は気になさらないでください………それよりも、俺は貴女にどう詫びれば良いのか…。」
「んー……………じゃあすぐにヤキモチ妬かないこと。私はちゃんと長谷部だけが好きなんだから信じて。」
「は、はい。」
「それからー……もう一度…でも今度は優しく口付けして?それでおあいこ、仲直りにしようよ。」
ね?と言うと、長谷部に強く抱きしめられた。
その背中をポンポンと優しく叩く。
そんなに気にしなくても良いのに、生真面目な長谷部は今、罪悪感でいっぱいなんだろう。
「そんなに気にしないの。」
「ですが………」
「…ねぇ、長谷部。仲直りしたくないの?」
「そ、そんなことありません!」
「じゃあ仲直り…しよ?」
体を離して長谷部の目をじっと見る。
…うぅ、自分から言っといてアレだけど恥ずかしい……。
そう思っていたら両頬に手が添えられて、長谷部が私のおでこにこつりと自分のおでこをくっつけてきた。
「…二度とあんな勘違いはしません、すみませんでした。」
「うん。」
返事をすると長谷部が目を閉じて……私も目を閉じた。
彼の唇が触れるまで、あと少し。