第5章 一期一振夢01
「……では、今はこのくらいにしておきますかな。あぁ、そちらの遠征の報告書は書き足しておきますのでお任せください。」
ぎゅっと手に力を入れてしまっていたせいでシワの寄った報告書が一期さんの手に渡る。
「…は、はい、よろしくお願いします。じゃあ、私は部屋で他の仕事をしてますね。」
「はい。……あぁ、柚希様。」
サッと切り替えてくれた一期さんにほっとしていたら、今度は額に口付けられた。
驚いて固まった私に一期さんは笑いかける。
「可愛らしい反応をなされるのでつい、からかい過ぎてしまいました。申し訳ありません。名残惜しいですが……また、後で。こちらは夜には仕上げてお持ちします。」
そう一期さんが言った直後に少し離れた方から賑やかな声が聞こえてきた。
「おーい、いちにぃー?なぁ、厚、本当にいち兄こっちにいるのか?」
「うーん、石切丸さんが見かけたって言ってたんだけどなー?」
「どうしたんだい、厚に後藤。」
「あっ、いち兄!!秋田が隠れんぼしたいっていうからしてるんだけど、秋田が全っ然見つからないんだよ!」
「なぁ、いち兄も一緒に探してくんない?」
「やらなくてはならない仕事があるから……秋田を探すまでは手伝おうか。」
「やった!じゃ、向こう見に行こう、いち兄!」
………そんな会話と去って行く3人の足音を聞きながら、私は額を押さえてずるずると廊下に座り込む。
「もー…………一期さん、ずるいよぉ……。」
申し訳ありません、なんて言いながら最後までからかってたじゃないですかと言いたい。
とりあえず、この顔の熱が冷めるまではここから動けないなぁと思いながら顔を覆って溜息をついた。