第1章 悲哀、師弟。
『…分かりました、その子を保護しましょう』
確かなその言葉を聞き、私はホッとして笑った。
太腿と足を繋いでいた糸が、切れているとも知らずに。
これでヤムライハが救われる、と…。
「シンドバッド王は、あなたを護ると約束してくれました」
「……師匠は…?」
彼女が泣く寸前になっているという事は、震えた声で分かった。
ヤムライハの目線に合わせるようにかがむと、ひっく…、と泣き出す。
ああ…本当に可愛い、愛弟子だ。
だからこそ、一人前になるまで育てたかった…。
「転送魔術式『ウェル・アイザ』…っ」
彼女の足元に出現した魔法陣から、無数の白い手が伸びた。
ヤムライハをしっかり掴み、引きずり込んでいく。
それでも、彼女は私の手を最後まで離さない…。
「やだ…っ、師匠、…師匠ぉおっ!!」
「私を超える、立派な魔導師になるんですよ。…約束です」
ヤムライハの手を一度…、ギュッと握り返し、持っていた杖を握らせる。
これは、彼女が一人前になったら、渡すつもりだった。
杖が魔法陣に飲み込まれると、防衛壁はピシ…っ、とヒビが割れ始める。
「大好きです、ヤムライハ…」
彼女が完全に飲み込まれるまで、私は笑顔を絶やさなかった。
最期まで、旅立つ弟子を見送った。
バリン…ッ