第1章 〜人形のような少女〜
食堂から戻ってきた私は、金タライに水を汲んで、氷を浮かべ、ドリンクボトルをその中に並べた。
その頃には練習は始まっていて。
「おや、もう仕事終わったのかい?」
竜崎先生の言葉に、一つ頷く。
彼女は私をマネージャーに誘った張本人。
剣道も空手も合気道も柔道もバトミントンも水泳もダンスも歌もそしてテニスも。
兎に角思いつく限りのスポーツ総て、何もかも頂点を極めてしまった私は退屈な日々を送っていて。
そんな私に、もう少し上のテニスを見せてやろうと言って、連れて来られたのがこの場所。
確かに、女子テニスと男子テニスは種目が別だから、元来触れることは無い。
そして、女子テニスと男子テニスの差は歴然だった。
何より、皆楽しそう。
強豪高校だからか、選手も皆粒揃いだし、私も真剣に試合したら勝てるかどうか分からない。
この場所は、そんな高揚を与えてくれる。
「竜崎先生」
「なんだい?」
「打っても、良いですか?」
この人は初めにこうも言った。
マネージャーの仕事はそう多くない。
その仕事が終われば、選手と打ったって構わないと。
「勿論。まぁ、あんた相手にやりたい相手がいるのなら、ね」
「ちーっす。俺やるっす」
「待ておチビ!俺も俺も!」
「はは。面白そうだね。僕も立候補しようかな」
練習しながら聞き耳を立てていたのか、越前君、菊丸先輩、不二先輩が竜崎先生の前にやってくる。