第1章 〜人形のような少女〜
それから。
一人でいる私に。
「次、移動教室だけど」
「へ?あ、うん」
こんな感じで何かと声を掛けてくれる越前君。
そして放課後。
ボールを出してさっさと昨日覚えたばかりのドリンクを作り、一年生達がネットを張り、コート整備をしているのを見やりながら、タオルの用意をした所で、レギュラー、準レギュラーの人達が集まってきた。
「あ、ちゃん!なにしてるの?」
「何って…準備です」
真っ先に走ってきた赤い跳ね髪の菊丸先輩に、きょとんとしながら答えると、彼はにへらと笑う。
「ほー。昨日入ったばっかなのに、手際いいにゃー」
周りを見回して笑う彼に、何と答えていいか分からずに、ぺこりと頭をさげる。
「むー…やっぱり素っ気ないにゃあ…」
「…色恋は厳禁なんじゃないんですか?」
「ん?禁止じゃないよ?跡部が煩い女の子がコートの中に入るの嫌うだけだよ」
チッチと指を振って答える菊丸先輩に、目を瞬かせる。
「へぇ、そうなんですか」
「おい、菊丸。余計な事言ってんじゃねぇよ、あーん?」
聞いた限りじゃ脅している様に取れる話癖。
黒銀の髪と泣き黒子が特徴の麗人。
自分の事を俺様と呼ぶ跡部景吾のお出ましだった。
家もお金持ちの御坊ちゃまらしい。
「ほう、もうドリンクまで作っちまったのか。だが、それじゃ温くなっちまう。冷やしとけよ」
「分かりました。じゃあ、氷貰ってきます」
軽く頭を下げてテニスコートを出ると、氷を貰う為に食堂へ向かう。