第1章 〜人形のような少女〜
その頃。
帰宅した不二は、未だ武者震いを抑えられないでいた。
カウンター技は悉く破られ。
彼女がボールを追って走っていたのは最初の5ゲームだけ。
5-0からの怒涛の反撃は、そのまま負けたっておかしく無かった。
サーブはぶれて消えて取れないし、手塚ゾーンに百錬自得の極み、才気煥発の極み、天衣無縫の極み。
其処に無我の境地を織り交ぜてのまるで踊るような超攻撃型テニス。
然も完全に使い熟している。
それに…最後に一瞬見せたあの眩しいほどの気迫は何だった?
あの子が鍛錬不足で体力が落ちていたからなんとかタイブレークで勝てたけど、全然勝った気がしない。
まだだ、まだだって身体が疼く。
久々だよ、こんな試合。
本当に…持って行かれそうになる。
欲しくなる。
その才能も、身体も心も。総てを…。