第1章 〜人形のような少女〜
校門前にリムジンが迎えに来て、一目で高級とわかるレストランに連れて行かれた。
腐っても財閥の娘だったから、動揺はしないけれど。
派手なのはあまり好きじゃないから、こういうところは余り来た記憶がない。
でも流石にテーブルマナーぐらいは覚えていたみたい。
私の食べ方を見ていた跡部先輩が、対面でにやりと笑う。
「お前、庶民じゃないな」
「…まぁ」
「何処のお嬢様だ?」
「。私の苗字です」
答えると、ハッとしたように跡部先輩が目を見開いた。
「成る程な。災難だったなぁ」
「別に…」
余りこの会話はしたくない。
同情なんて要らないし、特に悲観してる訳でもない。
寧ろ枷が外れて身が軽くなった。
私の優秀さと見た目にしか興味が無かった両親は、私の言葉を聞いてくれたことなんて無かったから。
「悪いな、飯が不味くなったか?」
普通に謝罪されて、きょとんと目を瞬かせる。
「…跡部先輩って謝れたんですね」
「てめぇ…」
「確かに跡部が人に謝っとるんなんか、初めて聞いたわ」
「珍しい事もあるもんだな」
うんうんと同意する忍足先輩と向日先輩。
跡部先輩はフォークを握りしめて怒りに耐えている。
「…すみません、美味しいですよ、此処のお料理」
このままじゃ机をひっくり返しかねないと、慌ててフォローに回ると、大きな溜息をついた後、平常時の表情に戻る彼。
「当たり前だろ。誰が予約したと思ってんだ。なぁ、樺地」
「ウッス」
よかった、思ったより単純で。
気付かれないように忍足先輩を睨むと、苦笑いで返された。
スープは滑らかだし、メインはシャトーブリアンだし。
本当に美味しいのだけれど。
男子テニス部員が食べるだけあって、量が多い。
ちょっと無理して食べてみたけど、デザートまではどう頑張っても入りそうにない。