第1章 〜人形のような少女〜
練習が終わって帰ろうとすると、忍足先輩と向日先輩に声を掛けられる。
「君寮なんやって?」
「俺らもそうなんだ。一緒に帰ろうぜ」
「まぁ…良いですけど。誰に聞いたんですか?」
「ん?寮長やけど」
成る程。
寮長なら、誰が寮にいるかぐらいまでは教えてくれるだろう。
部屋番は流石に教えないだろうけど。
ラケットバッグを持って歩き出す。
「そや、君ご飯どないしてん?」
突然の忍足先輩の質問に虚を突かれる。
「え、食堂ですけど…」
「あかんなぁ、あそこの食堂そんな旨ないやろ。外で食うて行かんか?」
寮の門限は午後10時。
それさえ守れば、食事や外出は原則禁止されてはいない。
「ええ、私で良ければ」
「ほう?俺様を差し置いてとデートか?忍足。あーん?」
飄々と現れた跡部先輩に忍足先輩が溜息を零した。
「俺だけかいな…岳人もやろ?」
「ええ?!巻き込むなよ、侑士〜!」
「おい樺地。レストラン予約しろ」
「ウッス」
「おい。今日は俺様の奢りだ。さっさと俺様に酔いな」
「…はぁ……?」
迷いなく携帯を操作する巨漢の樺地先輩。
なんだか無駄に色気を振りまいている跡部先輩。
何処と無く諦めムードで何かぼやいている忍足先輩。
どっちでも良いのか、跡部先輩を見つめる向日先輩。
もしかして彼らと食事しろってことなんだろうか。
誰でも良いから助けて欲しいんだけど…。
そんな事を思っても後の祭り。