第2章 ❇︎1月 こたつ【おそ松さん 長男】
それはある寒い冬の日。
こたつという魅惑的な存在が松野家にやってきた。
ひっじょーに厳し……いや、寒いこんな日にそんなものがあっては飛び込まずにはいられない。
それはまぁ人間の性というものだろう。
松代さんが出してくれたみかんを剥いて、お茶をすすりながらぬくぬくする。
こんな完璧なシチュエーションはない。
「ねー、ー」
「……」
「ってばー」
「……」
「さーん?」
それをひたすらに邪魔してくる長男さえいなければ。
「うるっさい!!何?嫌がらせなの?!」
「それはこっちの台詞だ!俺のこと何でそんなに無視するわけ?」
「こっちはこたつという素晴らしい文明の利器の温もりに包まれて幸せ一杯なの、邪魔しないでよ!」
「そんなのお前の家でやれ!!」
出来ていたらとっくにしている。
私の家にこたつがないのだから仕方ないじゃないか。
冬の寒い日に、こたつで、みかんを食べる。
幼い頃からの私の夢だ。
こんな穏やかでぬっくぬくの状況になってみたかったのだ。
おそ松に話したらババくさいと笑われたが。
「何しに来たのお前?まさか本気でこたつに入りにだけ来たとかいう訳?」
「勿論そうだけど」
「馬鹿か!!彼氏様の家に来てんだぞ?もっとすることあるだろうがよ!」
本当にうるさい人だ。
そんな頭ごなしに怒鳴らなくても良いじゃないかと口を尖らせるも、逆に彼を怒らせたようで。
強引にこたつから引き摺り出されそうになったから必死に抵抗する。
一瞬こたつから出た時にひやりと足を撫でた冷気に震え上がってしまう。
おそ松と暫く格闘を続けていた時、再び足を撫でる冷たい感触が来たが、それは冷気ではなく冷えたおそ松の手だったのでぶん殴った。
「ちぇ、いい触り心地だったのに」
「突然何すんのよ!…びっくりしたぁ…もう、放っておいてよね」
人様の家でこれだけ騒ぐのもどうなのかと言われてしまえばそれまでなのだが、やりたい放題のおそ松を制止してどうにか落ち着く。
と、その時私の耳に飛び込んできた声。
「あーあ、折角にすんごくあったかい機械見せてやろうと思ったのになー」
すんごくあったかい機械。
反射でぐりんと首をおそ松の方へと向けた私を見て、おそ松はニヤリと笑った。