第8章 ❇︎3月 「ごめんね 好きだよ」【スタミュ 鳳】
付き合う時に約束をした。
"お互いを束縛しないこと"
それが、こんなにも苦しいだなんて、私は知らなかった。
鳳樹と知り合ったのは中学の頃。
同じクラスで同じ委員になったことがきっかけだった。
彼はその当時から既に自身の生き方を見出していた節があり、委員会の仕事をサボるのはもちろん、クラス内の掃除や日誌の記入など当たり前のことまでやらないこともあった。
「鳳くん…怒られるよ」
「構わないよ」
それを代わりにやっていたのは私。
マイペースな彼をフォローするという立ち位置で、少し人より優位に立ちたかっただけなのだが、思惑通りに鳳くんが私に対して人とは違う反応をくれることが嬉しい反面苦しくもあった。
そんな彼には誰にも妨げることは出来ない夢がある。
ミュージカル。
私に全く馴染みのないそれに彼は魅了されていて、高校は綾薙学園に通うことを決めていた。
私の手の届かないところに羽ばたこうとしている彼を止める術を知らなかった私は、卒業式で彼に貰った第2ボタンを握りしめるしか出来なかった。
そして、高校入学。
鳳樹のいない学園生活は退屈極まりない。
自分が彼という存在に面白みを見出していたことを知ったところで、どうしようもないと思っていた。
彼のいない教室がこんなにも寂しいと思うこの気持ちが、恋だと気付いたところで叶わないことが分かってた。
だから。
「久しぶり、ガール」
「お…鳳…?!」
だから、彼が再び私の前に姿を現した時は、緩む口元を抑えられなくて。
「少しだけ…俺に付き合ってくれないかな?」
初めて鳳が私を必要としたことに、高鳴る鼓動が抑えられなかった。