第4章 ❇︎2月 チョコは甘いとは限らない【うたプリ トキヤ】
それは年に1度、女子達がチョコに想いを乗せる日のこと。
「ねぇ、誰に渡す?」
「私は聖川様!」
「私はレン様!ね、渡しに行こ!」
早乙女学園も例に漏れず、朝から女生徒はその話題で持ちきりだった。
「皆大変だね〜」
「他人事みたいに言っちゃって。も持ってきてるんでしょ?チョコレートっ」
「……まぁ」
同じクラスの友千香にはお見通しだったようだ。
思わずチョコレートの入った鞄を抱きしめると、彼女はおかしそうに笑った。
「それ、誰に渡すの?」
「内緒!」
気になると追求してくる友千香から逃げて座席に着くと、部屋の隅でチョコに埋もれている男子生徒達が目に入る。
いずれもこのクラスの人気者で将来有望なアイドル志望達。
一十木音也。
聖川真斗。
四ノ宮那月。
そして、
「…トキヤ…」
この間、SクラスからAクラスにやって来た一ノ瀬トキヤ。
彼の机は一際チョコの山が大きかった。
かくいう私の鞄にも彼宛のチョコレートが入っている。
最初は人と壁を作っているような彼にあまり良い印象は持っていなかったけど、様々なものを通じて少しずつ話すようになった。
何があったかを詳しく説明すると長くなるので割愛する。
そんな彼の人柄に惹かれ、歌に惹かれた。
同じくアイドル志望の私だけれど、彼の歌には聞き入ってしまう何かがあった。
今もトキヤは、チョコレートなんて興味ありませんといった風に目の前の山を完全に無視して読書を続けている。
「…受け取ってくれるよね?」
まぁまぁ話す仲だし受け取ってくれるだろうと思っていたのが、少し不安になった。