第3章 ❇︎1月 絵馬【黒子のバスケ 青峰】
なんとなく視線を彷徨わせながら歩いていても、再び彼女に会うことは叶わなかった。
「ま、当然か…」
そもそも本人かどうかさえ分からないのに。
随分と寂しがりになったものだと青峰は笑う。
気付けばかなり歩いてきていて、ふと横を見るとそこにはたくさんの絵馬が飾られていた。
人々の願いを乗せた木の札。
それが叶うなんて彼自身は信じているわけではなかった。
でも。
今日くらいは、年初めの今日くらいは神に縋ってみるのも良い。
どんな気まぐれかそんな風に思った青峰は絵馬を買ってみる。
とはいえ特に願いが思いつかない彼は貸してもらったペンをくるくると回しながらどうしたものかと考え込んだ。
神に縋らなければ叶わない願い。
ふと頭に浮かんだものは自身で打ち消す。
こんなことが思いつくなんて女々しいもんだと自嘲しつつも結局絵馬にその願いを書くと、それを奉納した。
「つか普通絵馬ってどんなの書くんだ?」
どうせ暇だしと好奇心から奉納された絵馬の願いを見ていく。
合格祈願やら恋愛成就やら、ありとあらゆる願いが書いてあるそれに、神様も大変だなと苦笑した。
ふと、そのうちの1枚に手を止める。
「これ…」
"今年は大輝に会えますように"
青峰には恋人がいた。
高校で知り合って、いつも留年しそうになった彼を先輩らと共に支えてきたしっかりした娘、。
それが大学生になって、違う大学に入って、一気に忙しくなったお互いは会うどころか連絡を取ることさえ出来ていなかった。
去年顔を合わせた回数は両手で足りるだろう。
先程ぶつかった彼女が、その恋人に見えたのだった。
「みーつけたっ!」
背中にくる衝撃。
物理的にはよろめくほどではないにしても、それは青峰にとって大きな衝撃を与えた。
「絵馬って偉大だね、本当に叶えてくれた」
「…あぁ、そうだな」
後ろを見なくてもわかる。
この声は、ぬくもりは、感触は、間違いなく愛しい人のもの。
「会いたかった…」
彼女の体勢を変え、正面から抱きしめる。
強く返してくれるを、本物だと確かめるように。
"の温もりを感じたい"
絵馬の効果を実感しながら、彼女の温もりに身を埋めた。