第14章 赤葦とバレンタイン【裏】
『京くん、なんですか この山は』
「……チョコレートデス」
『ひゅ〜〜 よっ人気者!』
「からかうな すいれん」
『あ、生チョコみっけ!京くんいっしょ 食べようー』
「あー それ、同僚からのやつ」
『はい、京くん』
京くんに贈られたものだから、京くんが開けて、さいしょに食べないとね。
彼女はそう言って包みを俺に渡した。
毎年毎年 チョコレートをもらって帰ることができるのも、彼女の理解があるおかげ。
むしろ誇りに思ってるよ、と すいれんは昔、言ってた。
果たして 本当だろうか。
深刻に考えてる俺を他所に、あっけらかんとした雰囲気で、 すいれんは生チョコを 口に放り込む。
「 すいれん、」
『ん?』
「パウダーついてる」
ぺろ、と口許のパウダーを舐めた。 すいれんは びっくりしたのか フリーズしてしまった。メガネ越しのその目は大きく開かれたまま。
今日も可愛いね。
耳もとで囁いて、そのまま チュッとキスを唇に落とした。
『心臓にわるいです』
「なんでムスッとしてるの?」
『ズルい』
「うれしかったくせに」
『京くんは 不意打ちが 上手』
「そりゃ どうも」
『褒めてない!』
「褒めてたじゃん」
『 すいれん おこ!』
「ぷんぷん?」
『ぷんぷん!』
「ほんと?」
『……』
「?」
『だから、もういっかい、 ? 』
チュッ
『はぁ…』
「ただのキスだよ?」
『だって、好きだもん』
腕のなかに閉じ込めた すいれんは、口を尖らせていた。
『京くんは わたしのものだもん、だから、あげない』
「だれに?」
面白いから聞いてみよう。
『おんなのこたち』
そっか。
やっぱり気にしてたんだ。