第10章 赤葦と歩幅
「京くん きょうのごはん どうしよっか?」
「んー、シチューかな」
「やった!京くんお手製だ!」
「えぇ…」
おなじ景色を見て、おなじものを食べて、おなじ場所に住んで。
すいれんとの「おなじ」は とっても心地がいい。
仕事帰り、きれいなものを見たり、展覧会や、試飲会、イベントを見つけたりすると、それを共有したくなる。
そんなときは、早く早くと、帰る足どりが速くなる。
今こうして、 すいれんと歩いているときとは違う、足どり。
そうえば、 お互いあと1ミリの頃、すいれんが ななめうしろを一生懸命ついてきていた。
いまは、並んで歩くのは難しくないけれど、昔はよく、すいれんに 速いと文句を言われたものだ。
「あ、またかわいい子発見」
「あれ、転ぶよ」
「わ、京くんすごい ころんだ」
「 すいれんも コケるとき あんなんだからね」
「なにそれ!ああー。だいじょうぶかなあ」
「大丈夫だよ、ほら、そこ」
「ほんとだ」
今度の子どもは、おぼつかない足どりで親のもとに駆けていった。 俺よりも、 すいれんよりも、小さい歩幅で。
「子ども、ほしいなあ」
「かわいいだろうね」
「うん。……」
「………まぁ、……近いうちに、授かるんじゃない?」
すいれんの小さな口がぽかんと開いたあと、三日月のかたちになって、白い吐息が唇から、出て、消えた。
「プロポーズですか?」
「…これがプロポーズでいいの すいれん?」
「だめ」
「はいはい」
分かってますとも。
子どもを授かることができたら、
その子の歩幅に合わせて、 すいれんと俺でそれぞれ片方の手をとって、歩こうとおもった。
絡めたままの指をもう一度とって、指を交互にし直すと、 すいれんは また にこりと笑った。
でも、いまは この、隣を歩く愛らしい恋人と、一歩をおなじにしたいと、思う。