第13章 終演~遠ざかる夕焼け~
そのまま屯所を出て何処をどうやって歩いたのか分からないけれど、気が付くと僕は鴨川に掛かる橋の上まで来ていた。
欄干に肘を着いてふと顔を上げてみると、心地好い風が僕の頬を撫で空には見事な夕焼けが広がっている。
その夕焼けの中で黄金色に輝く太陽が、昨夜最後に目にした彼女の瞳と重なった。
君は僕に何も伝えてくれないまま行ってしまったね。
僕は君の事を何も知らない。
名前も年齢も……人間かどうかすら…も。
それから、どうしてあんなに僕を想ってくれていたのかも……
僕は知らないんだ。
知っているのは泣き黒子があって、笑うと笑窪が出来て……
君の身体がとても柔らかくて温かかった事だけ。
こんなにも僕の心を掻き乱したまま居なくなるなんて、ちょっと狡いかな。
やっぱり君をあの男に渡さなければ良かった……何て今更の事を思ってみたりして。
でも君が何処かで幸福そうに笑っている、そう考えたら僕は少しだけ救われる気がした。
もう会えないかな?
もう会えないよね。
じゃあ……
遠ざかるあの夕焼けに僕は何を願おうか?
そうだな……
生まれ変わって別の世界で君と再会出来たら、今度は僕が君の心を悩ませたい。
ねえ、僕の願いが届いてる?
僕は今を必死で生きる事にするよ。
また君に再会する為に。
だから次は……
きっと君が僕を『見つけて』くれるよね。
了