第13章 終演~遠ざかる夕焼け~
その南京錠を凝視したまま微動だにしない僕に向かって土方さんが探るような声を掛けた。
「お前、何か知っているのか?
こんな仕業、誰が出来るって言うんだ?」
土方さんだって薄々感付いてる癖にね。
今だ口を開かない僕に、今度は一君が焦れたように問い掛ける。
「あの女が消えた。
総司に心当たりは無いのか?」
一君だって本当は分かってるんでしょう?
……彼女はもう二度と此処には戻って来ないよ。
「はっ……はは…あははは……」
突然大声を上げて笑い出した僕に土方さんと一君は絶句し、狼狽を隠せない視線を僕に向ける。
ああ……僕達は何て愚かだったんだろうね。
縛り付けても閉じ込めても、彼女に対しては全く無意味な行為だったんだ。
彼女はその気になれば何時でも簡単に脱け出せたのに、そうしなかったのは彼女本人の意思以外の何物でも無い。
それなのに僕達は此方が主導権を握った気になっていた。
本当は彼女の方が僕達に『寄り添って』くれていたのにね。
もう自分達の愚かさが可笑しくて堪らないよ。
絶えず笑い続ける僕に、土方さんが呆れた様子で問い掛けて来た。
「おい……何がそんなに可笑しいってんだ、総司。」
「僕達の馬鹿さ加減が……ですよ。」
僕は笑い過ぎて涙が滲んだ目を擦りながら答える。
「はあ?そりゃどういう事だ?」
意味が分からないといった様子の土方さんと一君に
「もう良いんですよ。
もう……あの娘の事は忘れましょう。」
それだけを告げて僕は歩き出す。
「おいっ……総司!」
背後から僕を呼ぶ土方さんの声が聴こえたけど、僕は振り向く事無くゆっくりとその場を離れた。