第13章 終演~遠ざかる夕焼け~
僕が目を覚ましたのは屯所の自室だった。
彼女とあの男が去った後、どうやら意識を失ってしまったみたいだ。
恐らくその後に土方さんに助け出されたんだろう。
うっすらと土方さんに名前を呼ばれた記憶が残っていた。
寝床の中で色々と昨夜の出来事に考えを巡らせてみる。
圧倒的な強さで僕を蹴り飛ばしたあの綺麗な男が『人間じゃない』事……。
僕を庇ってくれた彼女も『人間じゃない』事……。
彼女があの男に抱かれて、僕の前から消えてしまった事……。
考えれば考える程あまりにも不可解過ぎて、あれは僕が見た夢だったんじゃないかと思えてきた。
もしかしたら彼女はまだ土蔵に居るのかも……。
だって僕は池田屋に向かう前に土蔵には鍵を掛けた筈だ。
そう思い付いた僕は激しい焦燥感に煽られて、痛む身体を奮い起こし寝床を飛び出した。
土蔵の前まで行ってみると、其処では土方さんと一君が難しい顔をして話し込んでいた。
僕に気付いた土方さんが驚いたような声を上げる。
「総司……お前、起き上がって大丈夫なのか?」
その問いに答える事無く、何かに取り憑かれたように開いたままの土蔵の扉へ近付いて行き、僕の視線はある一ヶ所で固まった。
其処に有ったのは無惨に破壊された南京錠だ。
これは昨夜、僕が土蔵の扉に掛けた南京錠に間違いない。
でもそれは何か道具を使った形跡も無く、まるで人の手で引き千切られたように閂が拉げていた。
こんな事が出来たのは只一人だ。
だって閂は明らかに扉の内側から押されたように千切れている。
土蔵の中に居た誰か………そう、彼女だけだ。