第12章 風間千景の駆退
俺は片手で女鬼の後頭を掴み口付ける。
拒むように身を捩る女鬼の身体をもう片方の腕で拘束し、舌で唇を抉じ開け口内を犯すが如く激しく舐め回した。
これはこの男の前でこそ効果を発揮する行為だ。
唾液が絡まり合う湿った音が響き、俺と女鬼のその行為を見つめている男は苦し気に眉をひそめている。
強張っていた女鬼の身体から力が抜け、全身を俺に委ね始めた所で俺は唇を離した。
「俺は本気だ。
お前は俺の子を産み、俺とその子供の為だけに生きれば良い。
そうすれば俺は生涯お前を愛でてやると約束しよう。」
俺の言葉に女鬼が一筋の涙を溢す。
その姿を見て、只鬼の繁栄の為だとこの女鬼を欲していた俺の中に愛おしさが沸き上がった。
「鬼は一度交わした約束は必ず守る。
さあ…生涯俺に愛され続ける覚悟を決めろ。」
女鬼は困ったような顔をして背後に居る男を振り返った。
その表情を見て男が僅かに微笑む。
「………行きたいんだね?」
女鬼は何も答えなかったが、それは肯定しているという事だろう。
「一つだけ答えて。」
男は女鬼の頬を両手でそっと撫でた。
「僕を助ける為に行くんじゃ無いよね?
もしそうなら許さないよ。
君自身が幸福になりたいから行くんだよね?」
男の真剣な問い掛けに、女鬼は小さくこくんと頷いた。
「うん。
じゃあ、行って。」
にっこりと笑った男の手が頬から離れると、女鬼はとても愛おしそうに男の血塗れの唇をぺろりと舐める。
……やはり面白くないな。
我が妻に迎えようとする女が、俺以外の男の身体に舌を這わせるなど……。
だが、まあ良い。
今だけは見逃してやろう。
此れから先は、俺以外の男に触れる事も触れさせる事も許さぬのだからな。