第12章 風間千景の駆退
「今の話を聞いていたな?
さて……どうする?」
俺に問われた女鬼の目は明らかに迷っていた。
その隙を逃さぬ様、俺は女鬼に手を差し伸べ惚れた女を口説くような声色でもう一度言う。
「俺と共に来い。」
それでもまだ動かない女鬼の後ろで、俺に蹴り倒された男が声を上げた。
「この娘を幸福にしてくれるんだよね?
酷い事したりしないよね?」
お前に言われるまでも無い……そう思ったが、今はこの男の言動が大きな決め手になるだろう。
それを上手く利用しなくてはな……。
「勿論だ。
俺が連れ帰り、正妻として迎えてやる。
何一つ不自由の無い暮らしを約束するぞ。」
俺の言葉に男は大きく頷くと、今度は女鬼を諭すように語り出す。
「ねえ、この人と行きなよ。
君はこの人に守って貰って、幸福になれるんだ。
もう淋しくなんか無いんだよ。」
女鬼は男に縋り着いて駄々を捏ねる子供のように首を振った。
まだこの男に執着するのか?
ならばその想いを存分に利用させて貰うまでだ。
俺は女鬼の前に屈み込み、その耳元で囁いた。
「お前が俺の元に来ると言うのならば、この男は見逃してやろう。
断れば……お前を無理矢理拐い、この男は此処で死ぬ。」
それはもう見事な程に効果的だった。
女鬼は堕ちる寸前だ。
さて……もう一押しだな。