第11章 私の独白
拾われた先で端的に聞き齧った会話から、私の居た集落が襲われた理由が見えてきた。
人間達の諍いの中で、鬼を利用しようと考え自分達に与するようにと求められた要請を私の父が固辞したからだ。
父が統べていた鬼達は、人間と関わりを持ちたくなかった。
鬼が人間の争いに関われば戦力に大きな差が出てしまう。
それが諍いに拍車を掛け、世の中が益々乱れる事は目に見えていた。
それは鬼達も望む事では無い。
鬼達は只静かに、穏やかに暮らして行きたいだけだったのに……
人間はそんな細やかな願いすら許してはくれなかった。
自分達に与する事を拒んだ鬼が敵方に着かぬ様、そして鬼を利用しようとした自分達の醜い策略が露見しない様、人間は鬼達の集落を徹底的に壊滅させたのだ。
だけど、それを知った所で私に何が出来たと言うのだろう。
人間に庇護され今を生き延びている自分には、既に鬼としての自尊心など欠片も残っていなかった。
私を拾った男達は長州藩に属する維新志士だった。
恐ろしい程巧妙に私を操り育て、気付けば私は一端の人斬りになっていた。
人間とは比べ物にならない圧倒的な戦闘能力、多少傷を負ったとしても暫くすれば元に戻り、しかも自分の意思を持っていない……
こんな便利な『道具』は他に無いだろう。
京の都で私は男達に言われるがまま人を斬った。
その行為に何の意味が有るのかなんて知らなかったし、興味も無かった。
言われた通りに仕事を終えると男達は私を褒めてくれた。
だから只々、自分の存在が求められていると感じたくて人を斬った。
………なのに言う通りにすればする程、男達の私を見る目には畏怖の念が含まれていく。
始めの頃は上手く仕事を熟せば「良くやった」と頭を撫でられ他愛もない会話もした。
でも時が経つにつれ会話は指示と報告のみになり、男達が私の身体に触れる事は無くなった。
………どうして?
ちゃんと言われた通りに熟しているのに……
どうして褒めてくれないの?
どうして触れてくれないの?
もう『私』は必要じゃ無いの?