第9章 沖田総司の愛憐
「………え?」
「だって『全部話さなければ逃がす訳にはいかない』って言ってた。」
「そうだけど………」
「だから喋らなかったのに。
喋らなくても此処を追い出されちゃうの?」
彼女は泣き出しそうな表情で必死に僕に掴み掛かって来る。
「もしかして……
此処に居たいから話さなかったの?」
大きく頷いた彼女を見て、僕の鼓動は早鐘のように打ち始めた。
「どうして……?
僕達は君にこんな酷い事をしたのに。
それなのにどうして此処に居たいなんて…そんな事を……」
「酷くなんて無い。
………嬉しかったの。」
僕には彼女の言っている意味が良く分からない。
あんな事をされ続けて『嬉しい』なんて普通じゃない。
それでも僕は……やっぱりこの娘が欲しいと思った。
「嬉しい…って?」
少しでも彼女の真意を理解したいと問い掛けた僕の言葉に、彼女の瞳がじわりと滲む。
「皆が私を求めてくれた。
皆が私を抱き締めてくれた。
私に話し掛けて、私の身体に触れてくれた。
それが凄く嬉しかったの。
…………そう感じるのって可笑しな事なの?」
まるで子供が大人に対して素朴な疑問を問うような口調に、僕は堪らず彼女の身体を力一杯抱き寄せた。