第9章 沖田総司の愛憐
この娘はこれ迄どんな風に生きてきたのかな。
こんな思いを持つなんて……少なくとも幸福では無かったんだろう。
君のその痛みが…君のその哀しみが、僕の身体に染み透るまで抱き締めて居たい。
「私が喋ったら………」
僕の腕の中で彼女はぽつりと呟く。
「私が喋ったら、貴方は喜ぶ?
……嬉しい?」
「やっぱり何か知ってるの?」
彼女の両肩に手を掛け、その顔を覗き込んで聞いた僕に彼女はもう一度言った。
「貴方は嬉しい?」
「嬉しいよ。
いや、嬉しいと言うより助かるんだ。
君が喋ってくれたら………」
「今夜……池田屋に行って。」
彼女は何かを諦めたように微笑みながら告げた。
「池田屋……三条小橋の?」
「そう。出来るだけ大勢で行って。
………絶対に油断しないで。」
「分かった。ありがとう。」
彼女の身体を手離してから興奮気味に立ち上がり、
「君を守る為にも此処には鍵を掛けておくけど
戻って来たら必ず自由にしてあげるから待ってて。」
そう言って土蔵を出ようとした僕の背中に彼女が声を掛ける。
「喋らなかったのは……」
振り向いた僕の目を見つめて彼女は悲しそうに笑った。
「何よりも貴方の側に居たかったから。
………ごめんなさい。」
僕は堪らずもう一度彼女に駆け寄り、膝を付いて唇を重ねた。
彼女がどうして僕の事をそんなに想っているのか不思議だったけれど、今は答えを探している時間は無い。
「じゃあ、行ってくるね。」
今度こそ迷う事無く土蔵を出る僕の背後で
「気を付けて……」
彼女の掠れた声が聞こえた。