第5章 原田左之助の懇篤
「埒が明かねえな。
………暴れるなよ。」
俺は膳の上にある湯呑みを手に取ると、その中にある白湯を口に含んだ。
少しでも滋養が摂れるようにと白湯には砂糖が溶かしてある。
片手で女の項を固定し顔を上向かせてから唇を重ね、口の中に白湯を注ぎ込む。
その甘さに驚いたのか一瞬女の目が見開いたが、素直にこくこくと喉を鳴らし俺の口から注がれた物を全て飲み込んでくれた。
「美味いだろ?
もっと飲むか?」
俺が湯呑みを手渡そうとすると女の拘束されたままの両手が上がり、指を俺の唇に這わせて来る。
その冷たい指先に反して、俺の唇は熱を持ち始めた。
「……何だ?飲ませて欲しいのか?」
こくんと頷いた女の態度を意外に思いながらも、俺は何故か笑っていた。
「お前……中々の手練れだな。
こりゃ斎藤や平助には手に負えねえだろう。」
俺は数度に分けて、湯呑みの中の白湯を全て俺の口から女の口へ流し入れた。
最後に重ねた唇を離す時、女の襟元へ手を差し込みその合わせ目を乱すと、まるで陶磁器のように白くて艶やかな胸元に紅い痣が無数に散らされているのが目に留まる。
その匂い立つ淫靡さにどくんと鼓動を跳ねさせて、俺は女の首元に顔を埋め紅い痣をなぞるようにねっとりと舌を這わせた。
「これ……誰にやられた?」
そう聞いた途端、女は勢い良く肩で俺の身体を弾き返し、まるで愛おしい物を守るようにその胸元を抱え身を屈める。
悔しそうに俺を睨み付ける女の目に、俺は急に血の気が冷めて行くのを感じた。
「すまねえ……悪ふざけが過ぎた。」
俺は女の身体から一歩退いて距離を取ると、その拘束されたままの手首に目をやった。