第5章 原田左之助の懇篤
確かに俺は関わりたくないと言った。
新選組に居る以上、その隊務を全うすべきだって事は理解している。
だが、やっぱり女を傷付ける事がどうしても正しい事だとは思えねえ。
結局はそれを土方さんに押し付けて、俺は逃げただけの狡い男だ。
それでも関わりたくないと言った所で気にならない訳じゃねえ。
だからそれとなく斎藤にあの女の様子を聞いてみると、斎藤は相変わらず真面目な顔をして捕縛した時より一切食い物を口にしていないと言った。
餓死でもするつもりなのか?
いや、死ぬ気ならそんな回りくどい方法を選ばなくたって良い筈だ。
俺は何故か居ても立ってもいられず、斎藤に頼み込んで女の元へ朝餉を持って行く役目を譲って貰った。
斎藤は訝しげな顔をしていたが、「では、頼む」と軽く頭を下げた。
凌辱されて、食事も摂らずどれ程憔悴しているだろうと覚悟を決めて土蔵に入ったが、意外にも女は捕縛した時と変わらない様子だ。
唐突に現れた俺の姿を見て、女は驚いたように目をぱちくりと瞬かせている。
「関わりたくないと逃げた男がやって来て
不思議で堪らねえって顔だな。」
俺は自嘲気味に言ってから、女の前に屈み込んだ。
「ずっと何も食ってねえんだってな。
馬鹿な真似は止めて食え。」
持って来た膳を女の膝元へずいと押し出す。
女はそれにちらりと目を向けただけで手を出そうとはしなかった。
「縛られてても食い易いように握り飯を拵えて来たんだが
気に入らねえか?」
「………………………。」
女は無言のままだ。
「我慢してるのか?
それとも他に食いたい物があるなら言ってみろ。」
それでも女は何も言わず俺の顔をじっと見ている。
「お前を死なす訳にはいかねえんだ。
………食え。」
俺の高圧的な物言いが気に障ったのか、女は怒ったようにふいと顔を背けた。